不動産・土地利用などの地理的な空間データを用いた計量分析・空間統計解析と地理空間情報に関連する学際的研究を得意とする知的で開かれた研究者集団

研究プロジェクト

 

つくばエクスプレスの開通が沿線の土地価格に与えた影響

研究の目的

2005年8月24日,東京都台東区秋葉原と茨城県つくば市を最短45分で結ぶ鉄道である「つくばエクスプレス」(以下,TX)が開通した.TX沿線地域の多くはそれまで長い間鉄道空白域であり,首都圏最後の大規模鉄道プロジェクトとして,その開業に伴う効果は広域かつ大規模なものと期待されている。
そこで本研究では,TX開業前後10年間の沿線地域の公示地価に着目し,その間に沿線地域にもたらされた影響の抽出を試みる.具体的には,GISと空間内挿手法の一つであるOrdinaryKrigingを用いながらTX沿線地域における公示地価の変化を視覚化・抽出し,地価分布の構造の変化について考察する

TX沿線地域の概要と分析に用いるデータ

TXは,「東京圏北東部地域の交通体系の整備」,「JR常磐線等既設鉄道の混雑緩和」,「首都圏における住宅供給の促進」,「沿線地域における産業基盤の整備と業務核都市の形成」を目標に,秋葉原〜つくば間58.3kmを最速45分で結ぶ高速都市鉄道として2005年8月24日に運転を開始した。 以下に,TX事業の沿革について首都圏都市鉄道株式会社のホームページ(http://www.mir.co.jp)およびTX協議会のホームページ(http://www.tx-kyogikai.jp/tx/index. html)を参考に事業沿革の概略を記す

TX事業の沿革
年月 内容
85年 7月 運輸政策審議会が「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」を答申.常磐新線整備は都市交通対策上喫緊の課題と位置づけられた
90年 6月 「大都市地域における宅地開発及び
鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」(一体化法)成立
91年 3月 首都圏新都市鉄道株式会社設立
94年 1月 秋葉原〜浅草間工事施工認可
94年 1月 守谷〜みらい平で工事施工認可
同年 10月 秋葉原において新線の起工式
98年 12月 流山おおたかの森〜守谷で工事 施工認可
99年 3月 みらい平〜つくばで工事施工認可
同年 6月 全線都市計画決定
00年 7月 全線で工事施工認可
01年 2月 常磐新線の名称が「つくばエクスプレス」に決定
同年 6月 全線で工事着手
03年 10月 つくばエクスプレス全線20駅の駅名を決定
同年 11月 茨城県内の土木工事が完了
04年 3月 全線で土木工事が完了
05年 7月 ダイヤ発表
05年 8月 TX開業

TXの沿線地域として,本研究では図1に示すような沿線18市区町村を取り上げる。

地価データとしては,公示地価は国土数値情報のホームページ(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/)より入手した95年から,06年までの公示地価を用いることとし,この中からこの期間毎期観測された630地点(図2)を抽出する。 これは,公示地点の入れ替わりが推定に及ぼす影響を除去するためである.06年度の対象地域における公示地点数は837点であり,そのうち95年から連続して観測されている点はその75.3%となっている。
ここで,TXの効果が及ぶ地域を,直線距離に基づくTXの各駅を最寄駅とするボロノイ領域とする(図3)

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GISと空間内挿を用いたTXの効果の視覚化

図4は,本研究の対象地域(図1)内の各都・県における95年の平均地価を1とした指数を示したものである.これより,95年から06年にかけておおむね地価は一貫して下落していることが分かる(ただし東京では05年から06年にかけて増加).このような状況下では,内挿による視覚化を行っても,TXの効果を直感的に理解するのは困難である

 対象地域における公示地価の推移】【図5  隣接市区町村と公示地点の位置】

(図の黒で示した地域が,図1-図3に示した地域に相当)

そこで本研究では,図5に示されるような隣接市区町村の平均地価を用いてTX以外によるマクロな動向の影響を除去することとする。ここで,円,正方形,五角形,三角形はそれぞれ茨城,千葉,埼玉,東京の公示地点を示しており,白塗りは対象地域,黒塗りは隣接市区町村の公示地点を示している。隣接市区町村の公示地点としては,95年から06年まで連続で観測された759点を用いており,対象地域,隣接地域における都県毎の公示地点数はそれぞれ(茨城:146,千葉239,埼玉45,東京200,合計630),(茨城:107,千葉:153,埼玉:192,東京:307,合計759)である。

以下,実際に地価分布の視覚化を行った結果について考察を行う。 97年から98年にかけて地価の分布が大きく変化したこと,さらには99年から2000年にかけても大きな変化があったことが分かる。後者は,秋葉原・つくば間のTX全線が都市計画決定された時期に対応している.大規模な社会資本整備においては,その運用が始まる以前から周辺地域で資産価値が上昇するという現象(アナウンスメント効果)が見られることが知られているが,97年から98年にかけての動きはそのような現象と考えることができようまた,99年から00年の変化は,その前の97年から98年の変化の反動のような動きをしていると見ることができる。
さらに,開通が近づいた01年頃からも,つくば駅周辺で本格的に地価が上昇(あるいは下げ止まり)し始め,04年以降では守谷駅周辺でも地価上昇(下げ止まり)が見られる(なお,図における地価の上昇は,隣接市区町村の上昇率に対する相対値であるため,実際に地価が上昇しているとは限らない)

論文

Morito Tsutsumi and Hajime Seya: Measuring the Impact of Large-Scale Transportation Project on Land Price Using Spatial Statistical Models, Paper in Regional Science, Vol.87(3), pp.385-401, 2008.

【図6 守谷からつくば駅にかけてのTX沿線地価の毎年の変化(前年度との差分を表示)】

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Spatio-Temporal Linear Modelを用いたマンション価格・賃料データの時空間分析

従来の不動産価格研究において、時空間の分析では、パネルデータを想定していた。しかし、実際の取引データは同じ地点で毎年観測されない。
そこで、Pace et al(2000)によって提案されたSpatio-Temporal LinearModel(STLM)を、つくばエクスプレス沿線に適用し、STLMの有効性の検証を行った。

従来の手法のイメージ
従来の手法のイメージ
本研究で用いる方法
本研究で用いる方法
 
対象地域と用いるデータの概要
使用データ

データ元:アットホーム株式会社による提供
対象範囲:TXの駅を最寄り駅とする物件が
       ある市町村(東京都を除く)
→三郷、八潮、流山、取手、 柏、守谷、松戸、
谷和原、伊奈、つくば
全2620件

新築・中古賃貸物件の賃料単価(円/u)の分布推移(2004〜2007年)
新築・中古賃貸物件の賃料単価の分布推移(2004)
新築・中古賃貸物件の賃料単価の分布推移(2005)
新築・中古賃貸物件の賃料単価の分布推移(2006)
新築・中古賃貸物件の賃料単価の分布推移(2007)
賃貸物件の分布状況(2007年)
賃貸単価価格帯
  • 3.5-4.0
  • 3.0-3.5
  • 2.5-3.0
  • 2.0-2.5
  • 1.5-2.0
  • 1.0-1.5
  • 0-1.0
売買物件の分布状況(2007年)
売買単価価格帯
  • 35-40
  • 30-35
  • 25-30
  • 20-25
  • 15-20
  • 10-15
  • 0-10

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STLM
従来のパネル分析におけるモデル

Y :被説明変数ベクトル(価格単価)
X:説明変数行列

STLM

STLM

  • 物件自体の持つ属性の評価値
  • 周囲の説明変数からの影響
  • 価格単価の時空間相関

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分析結果

もっとも単純な方法であるダミー変数モデル(DVM)とSTLMを用いて、賃貸・売買を対象に分析し、その結果を比較した。

結果から示唆されること

@時空間分析において、空間の要素を考慮することの重要性
ASTLMはDVMと比べ、使用する変数が減る一方で、モデルの説明力があがることから、STLMを取引価格に時空間分析手法として用いる有効性が示された。

賃貸物件の分析結果
変数 パラメータ t値
Ty 0.124 0.682
Sy 0.904 43.257
TSy -0.066 -0.350
STy -0.604 -4.209
  変数の数 パラメータ
決定係数 AIC
DVM 23 23 0.594
12325.22
STLM 11 44 0.821 10031.42

 

売買物件の分析結果
変数 パラメータ t値
Ty -3.460 -2.566
Sy 0.805 9.785
TSy 0.871 0.565
STy -0.476 -0.608
  変数の数 パラメータ
決定係数 AIC
DVM 17 17 0.630
1155.19
STLM 6 24 0.655 1138.60

 

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